ガウディ建築は『自然の翻訳』だった|サグラダファミリアとバルセロナの4つの建物

ガウディ建築は『自然の翻訳』だった|サグラダファミリアとバルセロナの4つの建物

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スペインの滞在中、最も長く時間を過ごしたのがバルセロナでした。バルやビーチ、美術館にスタジアムと見どころは尽きませんが、この街を歩いていて何より印象に残ったのは、あちこちに当たり前のように建っているガウディの建築でした。

旅の全貌はこちらです。

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正直に書くと、街を歩き始めたころの自分は、ガウディを「奇抜な建物を作った人」くらいにしか思っていませんでした。けれど4つの建築を巡り、最後のグエル邸に立ったとき、見え方が変わりました。

サグラダ・ファミリアの森のような柱は木の幹を、カサ・バトリョのうねる曲線は海を写し取ったものです。自然界にある形を、建築の言葉へ翻訳し続けた人。そう捉え直すと、バラバラに見えていた4つの建物が一本の線でつながりました。そして、その思想に金を出し続けたのが、グエル伯爵という一人のパトロンでした。

ここからは、その4つを巡った順に書いていきます。

滞在の拠点

観光の拠点にしたのは、以下の2つのホステルです。どちらも清潔で快適でしたが、個人的には「ファブリジオズ プティ」が特に良かったです。

サグラダ・ファミリア|森を写した柱と、変わりつづける光

まず向かったのは、日本でも有名なサグラダ・ファミリアです。

発つ前に東京国立近代美術館のガウディ展に行き、模型や図面で予習をしていきました。だから自分は、行く前から建物を「だいたいわかったつもり」でいました。

ところが、午前中に内部へ入った瞬間、その「つもり」は崩れました。ステンドグラスを通した朝日が、森のように枝分かれした柱の上に落ちて、刻一刻と色を変えていきます。柱が木の幹を、天井が枝葉を模していることは予習で知っていたはずなのに、光がここまで生きものみたいに動くことは、模型からは何ひとつ受け取れていませんでした。ただ純粋にすごいと、息を呑んでしまいました。

大聖堂の名のとおり、見上げるほどの高さでした 晴れの日が多いバルセロナだからこそ、この光がいつでも見えるのは羨ましいかぎりです 受難のファサード 森のような柱が印象的な大聖堂内部

サン・ピエトロ大聖堂に続いて、この旅では2回目の大聖堂でした。ただ、サン・ピエトロが石とドームの荘厳さで圧倒してくるのに対して、サグラダ・ファミリアは光と曲線で包み込んでくるような感覚で、同じ「大聖堂」でも受ける印象はまるで違いました。いたるところに聖書の場面が彫り込まれていて、新約聖書の知識があればもっと深く読み解けただろうな、という心残りもあります。

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入場には公式サイトからの時間予約が必要で、「受難のファサード」か「生誕のファサード」か、どちらの塔に登るかも選びます。予約サイトは満席に見えても、リロードを繰り返すと直後の空き枠が一瞬だけ拾えることがあったので、諦めずに試す価値があります。チケットにはスマホで聴ける音声ガイドが付いていて、これを聴きながら巡るとファサードの物語が一気に立体的になります。自分は途中まで存在に気づかず損をしたので、最初から使うのがおすすめです。

カサ・バトリョ|海を写した曲線

次に向かったのは、市街地に建つ邸宅カサ・バトリョです。

ここは「海」をテーマにした建築だと知られています。それを頭に入れてから内部に入ると、なるほどと腑に落ちました。やわらかくうねる壁、青や緑のタイルが波打つ階段、丸みを帯びた窓。直線がほとんど見当たらず、建物の中にいるのに深海をくぐっているような静けさがありました。サグラダ・ファミリアで「自然を写す人」という補助線を引いたあとだったので、この曲線が海の比喩だということが、説明されなくても伝わってきます。

グウェル公園|自然の地形ごと作品にした庭

続いて訪れたグウェル公園は、丘の地形をそのまま生かして造られた庭園でした。

ここで面白いのは、自然を「写す」だけでなく、自然の地形そのものを作品に取り込んでいるところです。斜面に沿って傾いだ柱の回廊は、まるで岩がそのまま列をなしているようでしたし、ベンチや塔の表面は、割れた色とりどりのタイルを寄せ集めるトレンカディスという手法で覆われていて、近づくほどに細かなモザイクが浮かび上がってきます。高台からはバルセロナの街並みと地中海が一望でき、散策するだけで非日常に浸れました。

朝に訪れると日の出がきれいだと聞いていたのですが、連日夜更かしをしていた自分は早起きできず、これは果たせませんでした。次に来たときの宿題にしておきます。

自然の岩をこんな形に取り込む発想は、やはり天才のものだと思いました 斜めに傾いだ柱の回廊 高台にあるので眺めもきれいです

グエル邸|思想に金を出した、パトロンの家

そして最後に訪れたのが、グエル邸です。

ここまでの3つが「自然を翻訳した作品」だとすれば、グエル邸は少し毛色が違いました。これはガウディのパトロンだった実業家エウゼビ・グエル伯爵が依頼し、伯爵が実際に住むために建てられた邸宅です。

公園や大聖堂を手がけた人が「人が日々暮らす家」を設計するとどうなるのか。実際に歩いてみると、吹き抜けで光と風が通る構造や、来客と家族の動線を分ける工夫など、暮らしやすさへの配慮が随所にありました。思想を突き詰めた作品と、人が住むための実用。その両方を引き受けられたのは、ガウディに自由を与え、長く支え続けたグエル伯爵というパトロンがいたからこそだと思います。バルセロナのガウディ建築は、一人の天才だけでなく、その天才に賭けた一人の理解者がいて初めて街に残った——そう考えると、邸宅の見え方が変わりました。

吹き抜けで空間がとても広く感じられます 邸宅にもファサードが

建築から離れて、街そのものを歩く

ガウディ建築をひと通り巡ったあとは、海辺の地区バルセロネータへ向かいました。地中海に面したこの一帯は、ビーチ沿いにレストランが並び、観光名所とはまた違うバルセロナの素顔が見える場所です。

ヤシの木とビーチ、まさに地中海

海沿いには「Xiringuito Escribà」という、バルセロナで一番ともいわれるパエリアの店があり、地中海を眺めながら食べられます。

ここで一つ、やらかしました。食べている途中で夕日があまりにきれいだったので、写真を撮りに行きたくなり、店員さんに伝えたところ「行っていいよ」とのこと。海外旅行の原則どおり手荷物を全部抱えて店を出て撮っていたら、あとから店員さんが猛ダッシュで追いかけてきて、食い逃げと勘違いされていました。荷物を全部持って出ると逃走に見えるので、サングラスでも席に残しておくのが大事だ、という教訓を地中海で得ました。

バレンシア・パエリアをいただきました

夜のバルセロナも忘れがたいものでした。空き時間にAirbnbでバル巡りのツアーを申し込んだのですが、ふたを開ければクラブを5軒はしごさせられるハードな内容で、気づけば朝になっていました。当時はかなり面食らいましたが、今となっては良い思い出です。

翻訳できないものを受け取りに行く

バルセロナは、失業率の高さといった社会的な課題も抱えていると言われます。それでも、地中海の気候と街を歩く人々の表情はどこまでも明るく、暮らすには心地よさそうな街だと感じました。その明るさに溶け込むように、ガウディの建築が街のあちこちに息づいていました。

この滞在で一番強く感じたのは、現地に立たないと受け取れないものがある、ということです。発つ前に美術館でサグラダ・ファミリアの模型を見て「わかったつもり」になっていた自分は、本物の柱に朝日が落ちて色を変えていく光を前に、その「つもり」が音を立てて崩れるのを味わいました。ガウディが自然界の形を建築に翻訳したように、現地の光や空気は、写真や動画にはどうしても翻訳しきれません。だからこそ、自分の足で行って、その場で受け取りにいく価値があるのだと思います。

これでスペインも終わり。次はドイツへ移動します。

3つ目の大聖堂で、感動は薄れていた|ケルンで気づいた『経験を積む』ということ

この旅から3年後、自分はこの街に住むことになりました。あのとき見上げたサグラダ・ファミリアやカサ・バトリョは、今では暮らしの日常風景の一部になっています。移住してからの記録はこちらのシリーズにまとめています。

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