バーデン=バーデンで何も予定どおりにいかなかった一日|カラカラ浴場・カジノ・深夜の出会い

バーデン=バーデンで何も予定どおりにいかなかった一日|カラカラ浴場・カジノ・深夜の出会い

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バーデン=バーデンでの一日は、何ひとつ予定どおりにいきませんでした。鉄道は高すぎて見知らぬ人の車に相乗りし、本命の浴場には閉館で間に合わず、世界一美しいというカジノでは雰囲気だけ味わって早々に退散しました。

それでも、この日は自分のヨーロッパ旅でいちばん記憶に残る一日になりました。理由は、その「外しっぱなし」の最後、深夜0時にホテルの入口で起きた出来事にあります。先にそこへ向かう前に、一日の流れから書いていきます。

そもそもこの街を目的地にしたのは、日本で会った知り合いに「ヨーロッパに行くなら、ぜひバーデン=バーデンのフリードリヒス浴場へ」と勧められたからでした。

旅の全貌はこちらです。

2週間ヨーロッパ一人旅の全記録|スペイン・イタリア・ドイツ・イギリス周遊

その知り合いに聞くまで、自分はバーデン=バーデンという街を知りませんでした。調べてみると、ドイツ貴族の保養地として知られる、ヨーロッパでも有数の温泉地で、ローマ時代の浴場跡まで残っている場所だそうです。ただ、スイス国境に近い南西の端にあるため、ケルンからのアクセスがやっかいでした。鉄道だと3時間ほどで着くものの、運賃は95€とそれなりに張ります。

鉄道が高すぎて、見知らぬ人の車に相乗りする

費用を抑える方法を探していて思い出したのが、トマト祭りで知り合った日本人が使っていた BlaBlaCar という相乗りアプリでした。ドライバーが目的地までの同乗者を募り、集まればお金を出し合って一緒に移動する仕組みです。

ところが、アカウント認証にはドイツの電話番号が必要でした。この旅では ahamo のローミングを使っていたので番号がなく、ケルンの街をいくつか歩き回って、最終的に家電量販店でプリペイドSIMを手に入れました。ここまでして、ようやく相乗りの予約ができます。

車を探すと、一人の男性ドライバーが見つかりました。その日の同乗者はなんと自分だけで、二人きりの3時間のドライブです。

ちょうどこの日はバスケのワールドカップでドイツが決勝を戦っていて、車内ではラジオの実況を一緒に聞きながら盛り上がりました。

話してみると、彼は心理学者で、日本の禅の考え方に興味があるとのこと。車内ではずっとそんな話をしていました。ここまでの旅で、現地の人とこれだけ長く、しかも概念的な話をする機会はなかったので、本当に良い時間でした。

同時に、限界もはっきり感じました。道を聞いたり買い物をする分には英語で困らなかったのに、日本の文化や禅のような抽象的なものを伝えようとした途端、自分の英語力では全く足りず、伝えたいのに伝わらないもどかしさに絶望しました。それでも、この会話はこの日のハイライトの一つになりました。

車窓からの夕日がきれいでした。ワイン用ブドウの名所なのだそうです

本命の浴場に間に合わず、隣のカラカラ浴場へ

降ろしてもらったランダウから、バーデン=バーデンまでは電車とバスをさらに乗り継いで2時間ほど。結局、街に着いたのは19時半ごろで、目的だったフリードリヒス浴場の最終入場時間はとうに過ぎていました。わざわざこの街まで来た一番の理由が、あっさり消えた瞬間です。

ここがフリードリヒス浴場。今回は入れなかったので、いつかリベンジしたいです

落胆しながら隣を見ると、まだ営業しているカラカラ浴場がありました。気を取り直して、こちらに入ることにします。

日本の温泉と比べると湯温は低く、「温泉」というより温水プールに近い施設でしたが、この旅ではほとんど湯船に浸かれていなかったので、しみじみとリラックスできました。種類も豊富で、飽きずに長居できます。本命を逃したからこそ入った場所が、結果として一日の疲れをいちばん癒やしてくれました。

落胆していたところに、隣でカラカラ浴場が開いていました 外から見たカラカラ浴場

風呂上がりのシュペッツレとビール

そのあと、近くのレストランに入りました。

近くにあったレストランへ

頼んだのは、相乗りのドライバーが教えてくれた「シュペッツレ(Spätzle)」というドイツの伝統料理です。卵を絡めたパスタのような一品で、少し塩気が効いていて、ビールによく合いました。車内の会話で生まれた小さなおすすめが、こうして夜の食卓につながっているのが、なんだか嬉しかったです。

お風呂上がりのビールは、国内外を問わず最高です

世界一美しいカジノで、雰囲気だけ味わって退散する

食後に調べていると、バーデン=バーデンには「世界で最も美しい」とされるカジノがあると知りました。

カジノでのギャンブルは、バレンシア、バルセロナに続いてこの旅で経験したことの一つです。せっかくなので、ここでも足を運んでみました。

ところが、ここはドレスコードがわりと厳格で、自分はそれらしい服を何も持っていません。困っていると、レンタルのジャケットがあるというので借りることにしました。

このジャケットのレンタルが5€。なかなかしますね

ジャケット代に入場料も加えて、中に入るまでで早くも10€ほど。それでも、入った先には料金にふさわしいゴージャスな空間が広がっていました。まるで007の「カジノ・ロワイヤル」のような雰囲気の中、上品な装いの人たちが静かに賭けを楽しんでいます。

照明も建築も見事でした 装飾もいかにもヨーロッパらしくて良かったです

貴族のようなブルジョワな雰囲気の人たちが大金を賭けていく横で、自分は大きく負けないうちに、雰囲気だけ味わって早々に退散しました。ここでも、目的を達したというより、その場の空気を覗いて満足した、という感覚でした。

深夜0時、ホテルの入口でロシアの少女を助ける

翌朝はバーデン=バーデン最寄りのカールスルーエ空港から早朝にロンドンへ発つ予定だったので、その夜は空港近くに宿を取りました。

着いたのは0時ごろ。自動チェックインの入口で、少女と、祖母らしき女性が何やら困っていました。スマホのビデオ通話で父親らしき人とつないで話しているのですが、英語もドイツ語も読めず、どうして中に入れないのか分からないでいる様子です。

通りかかった自分は呼び止められました。話を聞くと、どうやら朝食代の支払いが済んでおらず、それを払わないと入室できないようでした。彼女たちはクレジットカードを持っていなかったので、現金を受け取って、自分のカードで代わりに支払いました。

海外では知らない人をまず疑うのが原則なので、正直、警戒しながらのやり取りでした。それでも、無事に中へ入れた彼女たちから、ものすごく感謝されました。

国を越えて感謝されること、誰かの役に立てること。それがこんなに心を温かくするのだと、この日初めて知りました。何もかも予定どおりにいかなかった一日の、いちばん最後に待っていたのがこの出来事だったのは、できすぎているくらいでした。

一日の最後に、いい体験をしました

予定どおりにいかないから、世界に出てみる

振り返ると、この日に起きたことはどれも、計画していたものではありませんでした。相乗りの車で心理学者と禅を語ったことも、本命を逃して入ったカラカラ浴場でほっとしたことも、深夜に少女を助けたことも、旅程表のどこにも書いていません。予定が崩れて、行き当たりばったりになった先で出会ったものばかりです。

日本で同じ毎日を過ごしていたら、こんな出来事は一つも起こらなかったはずです。言葉が通じず、勝手がわからず、何もかも思いどおりにいかない。その不自由さの中でこそ、人と関わり、自分のちっぽけさにも、誰かの役に立てる温かさにも出会えました。

だから、もし海外に出ようか迷っている人がいたら、ぜひ一歩を踏み出してほしいと思います。うまくいかない一日ほど、あとから一番のお土産になります。

次は、最後の国イギリスです。

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井上 周(Amane Inoue)の個人ブログです。技術・読書・ドラマ・旅・大学生活のことを書いています。