シャンプーすら選べない — 移住して痛感した言語の壁と、それでも前向きな理由
スペイン・バルセロナに移住して、最初の数週間でいちばん身に染みたのが、言語の壁でした。生活に必要なものは現地でひととおり手に入ります。けれど、言葉が分からないと、それを「選ぶ」ことすらままなりません。
この記事では、移住直後に痛感した言語のリアルと、それでも前向きでいられる理由を書きます。きれいに乗り越えた話ではなく、いままさに壁の前にいる、進行中の記録です。
シャンプーひとつ、選べない
象徴的だったのが買い物でした。スーパーの棚に並ぶシャンプーも食材も、表示はスペイン語だけ。それがシャンプーなのかコンディショナーなのか、この食材が何なのか、確信が持てません。翻訳アプリをかざしながら、一つひとつ確かめての買い物になりました。
ものは目の前にあるのに、言葉が分からないだけで選べない。この小さな無力感は、暮らしのあらゆる場面で顔を出します。生活の自立度が、語学力にそのまま比例しているのを日々感じました。海外旅行でも多少は覚えることですが、暮らすとなると次元が違う、と感じたことはないでしょうか。
ただ、移住から少し経った今は、翻訳AIに写真を見せて聞けばたいていのことは即座に解決できるようになっています。パッケージを撮って問いかけるだけで、何の製品か分かる。あのころの「何ひとつ選べない感覚」は、AIツールがかなりの部分を引き受けてくれています。
英語は通じる、けれど
救いだったのは、英語がそれなりに通じることでした。バルセロナは観光都市でもあるので、日常の場面では英語で用が足りることが多い。しかも、お互いに英語のネイティブではないぶん、かえって話しやすさがあります。完璧でない英語どうしのほうが、気負わずやり取りできるのです。
ミートアップや外国人向けのイベントも多く、そういった場では英語だけで友達をつくることもできています。世界中から集まった移住者や旅行者が同じ英語の不完全さを共有しているので、むしろそれが共通の笑いになったりします。「スペイン語分からなくて」と言うと、「自分も同じ」と返ってくることが多い。その連帯感は、移住直後の心細さを思いのほか和らげてくれました。
それでも、英語だけで暮らしが完結するわけではありません。バルセロナを離れて郊外に出ると、英語はほとんど通じなくなります。スペイン語一色の世界に放り込まれる感覚は、都市部とはまったく違います。
日常の細かい場面では、やはりスペイン語が分からないと届かないところがあります。アジア人である自分には、少し話しかけづらさを感じる瞬間もありました。そこには文化的な距離感もあるのでしょうが、自分の言語の問題も大きいはずだと感じています。この距離感そのものについては、別の記事であらためて書きます。
すぐ使える環境は、いちばんの教材
ただ、悪いことばかりではありません。むしろ、覚えた言葉をすぐ使える環境にいると、勉強したい気持ちが自然と湧いてきます。教科書のためではなく、明日の買い物のために覚える。学んだそばから実地で試せるので、身につくのも早い。実感として、日本で英会話レッスンをしていたころよりも、こちらに来てからの習熟度のほうが格段に上がっています。
移住直後から使い始めたのは、デュオリンゴでスペイン語、ネイティブキャンプで英会話です。
もうひとつ試したのが、AirPods Proの同時通訳機能です。スペイン語を耳で追うのには助かる場面もありましたが、会話の相手にイヤホンが見えると少し目立つし、何より話している最中にずっとつけているのは不自然です。補助ツールとしては使えるけれど、これだけに頼るのは難しいと分かりました。
学ぶ理由が目の前にあるというのは、これ以上ない教材です。「いつか役に立つ」ではなく「今日使う」。この切迫感が、語学を続ける何よりの燃料になっています。
言語は、これからやりたいことの前提でもある
言語の習得は、目先の生活のためだけではありません。この先こちらでやってみたいこと——たとえば自分で小さな店(鯛焼き屋なんかも考えています)を持つようなことを思い描いても、結局は言葉が分からないと何も始められない、という現実に突き当たります。物件を探すにも、スタッフを雇うにも、行政手続きをするにも、言語なしでは動けません。
そう気づいてから、スペイン語を学ぶことへのモチベーションが質的に変わりました。「話せたらかっこいい」という気分ではなく、「これができないと始められない」という切実さに変わった感じです。語学学習に対してずっと腰が重かった自分が、今は自然に毎日触るようになっています。環境が人を変えるというのは、本当だと思います。
暮らすにも、人とつながるにも、何かを始めるにも、すべての土台に言語がある。英語とスペイン語の習得が、いまの自分にとって何より急ぐべきことだと、日に日に強く感じています。壁の高さは正直まだ見えていませんが、登る理由だけははっきりしている。その状態を、これからも記録していくつもりです。
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