ノマドの医療保険は3種類ある — 旅行保険とビザ用保険の違いと選ぶ順番

井上 周12分で読めるライフスタイル
目次
  1. 保険は3つの層に分かれる
  2. クレジットカード付帯の保険
  3. ノマド向け保険
  4. ビザが求める保険は別物
  5. 選ぶ順番
  6. 加入前に確認する項目
  7. 国民健康保険を抜くか、残すか

スペインのデジタルノマドビザ(DNV)を申請するには、取得条件を満たし、スペインの事務局に対して必要書類を準備して提出する必要があります。

その条件の一つにあるのが、保険。フリーランスとしてデジタルノマドビザが下りたら、自営業者向けの社会保険(RETA)に加入することになりますが、この他に入れる保険として民間の保険や、旅行保険があります。

この記事では、保険を3つの層に分けたうえで、ビザ側の要件から逆算して選ぶ順番を整理します。制度や保険料は変わるので、確認できた時点(2026年11月時点)の内容として読んでください。

保険は3つの層に分かれる

日本から長期に出る人が選べる保険は、役割で見ると次の3層です。

層例想定している使い方
旅行保険クレジットカード付帯、海外旅行保険期間の決まった旅行中の事故・病気
ノマド向け保険SafetyWing、Genki など長く移動しながら暮らす人の医療・旅行補償
居住・ビザ向けの民間医療保険スペインの保険会社の医療保険など現地で暮らすための医療と、ビザ審査での提出

上から順に安く手軽ですが、ビザ審査で通るかどうかは別の問題です。下に行くほど「その国で暮らすための保険」に近づきます。

クレジットカード付帯の保険

カード付帯の海外旅行保険は、期間が短く区切られています。JCB の解説ページでは、補償の対象は「出発から3ヵ月(カードの種類により2ヵ月)以内の旅行中の事故」とされていました。適用条件も、カードを持っていれば効く「自動付帯」と、カード会社が指定する条件(旅行代金をそのカードで払うなど)を満たして初めて効く「利用付帯」に分かれます。

同じページは、帰国せずに長期間移動する旅行や留学では、適切な保険を選ぶよう勧めています。数か月から1年以上滞在するノマドの本命にはなりにくく、渡航直後の短い期間をつなぐ位置づけだと自分は考えています。

自分も海外旅行保険が付いたカードを持っていますが、実際に使ったことはありません。確認したときに気をつけたいと思ったのは2点です。1つは、利用付帯のカードでは、旅行代金などを出発前にそのカードで払っておかないと保険が効かないことです。もう1つは、登山のような危険を伴う活動中のけがが補償の対象外になる場合があることです。旅先でやりたいことがあるなら、付帯保険の約款で対象外の活動を先に見ておくと安心です。

ノマド向け保険

ノマド向け保険は、長く旅をする人や海外に住む人向けに作られた保険です。

SafetyWing の Nomad Insurance には2つのプランがあります。公式ページの表示では、Essential は10〜39歳で4週間あたり62.72 USD、Complete は18〜39歳で月額177.50 USD でした(2026年11月時点)。Essential は既往症、出産に関する治療、がん治療を補償せず、母国(home country、日本から出た人なら日本)での補償は最大30日に限られます。一方、Complete には母国での補償に制限がない旨の記載があります。出国後や海外居住中でも加入できる、とも書かれています。

Genki には、旅行向けの Traveler と、長期の海外居住向けの Native があります。ヘルプセンターの説明では、Traveler の契約期間は最長1年で、自動更新はされません。Native には期間の上限がなく、新規加入は契約開始日に55歳以下である必要があり、申込時に医療質問票への回答が求められます。

ビザが求める保険は別物

スペインの領事館が公開している、テレワーク(デジタルノマド)ビザの必要書類には、医療保険の項目があります。

1つ目は、在サンティアゴ・デ・チリ領事館の要件文書です(PDFの作成日は2023年5月)。3年前の文書で、その後に改定されたかは確認できていません。

この文書では、スペインで営業を認められた保険会社と結んだ民間の医療保険を、1年分(または就労期間が1年未満ならその期間分)提出することになっています。旅行保険は有効でないと明記され、保険に待機期間(carencia)・自己負担(copago)・補償額の上限がなく、医療費の100%をカバーすることが求められています。保険会社はスペインの保険監督当局の登録リストに載っている必要があります。

2つ目は、イスタンブール向けに BLS のサイトに掲載されている要件文書です(日付は確認できませんでした)。

こちらは「公的または民間の医療保険」で、保険会社が同じく登録リストにあり、スペインの公的医療制度が保証するリスクをすべてカバーすることを求めています。スペインの社会保障でカバーされていることを証明できれば保険の提出は不要で、国際協定の適用がある場合は、相手国の担当機関が出す加入証明書で代えられる、という記載もあります。

2つの文書は書きぶりが違いますが、共通しているのは、スペインで認可された保険会社であること、公的制度に近い範囲の補償を求めていること、の2点です。

ただし求める厳しさは同じではなく、チリ向けの文書は自己負担なし・医療費の100%まで踏み込んでいます。申請する窓口の最新の要件を直接確認するのが確実です。

自分の申請では、RETA に登録することを誓約する書類を提出したので、イスタンブール向けの文書にある「スペインの社会保障でカバーされていれば保険の提出は不要」という書き方と、方向としては合っています。

しかし RETA に登録しても、社会保険料を少なくとも1回払うまでは公的医療を受けられません。それまでの間に医療機関にかかる可能性があるなら、高額な請求の発生を防ぐ意味でも民間の医療保険に入っておくのがおすすめです。手続きを頼んだ代理店からも、強く勧められました。

ビザの承認から、居住カード(TIE)の取得、自営業者の登録、初回の保険料の支払いまでには時間がかかります。これらの期間をスペインで過ごす可能性があるのであれば、補償がある保険への加入をしておくのが良さそうです。

DNV の書類全体は、別の記事にまとめています。

選ぶ順番

保険から探し始めると、安さや知名度で選んでしまい、あとでビザの要件に合わないと分かって入り直すことになりかねません。自分は次の順番で考えるのが無駄が少ないと思っています。

  1. ビザの要件を先に確認する。申請窓口(領事館か国内の窓口か)の最新の文書で、待機期間・自己負担・上限・保険会社の認可の条件を読みます。スペインの社会保障への登録で代えられるかどうかも、ここで確認します
  2. 要件を満たす保険を、現地の保険会社の商品から探す。ビザ審査に出す保険は、ここで決まります
  3. 渡航から保険の開始までの空白を埋める。ビザ用の保険には開始日があります。それ以前の期間は、カード付帯の保険かノマド向け保険で補うかを考えます
  4. 日本の健康保険をどうするかを決める。次の節で触れます

2と3は同じ保険で兼ねられることもありますが、兼ねる前提で選ばないほうが安全です。

加入前に確認する項目

保険の比較表の「補償額」だけを見ても、ビザ審査に使えるかは分かりません。契約前に、約款や商品ページで次の項目を確認します。

  • 保険会社がスペインで営業を認められているか(監督当局の登録リストに載っているか)
  • 待機期間(carencia)がないか
  • 自己負担(copago)や免責額がないか
  • 補償額の上限があるか、あるならいくらか
  • 補償される地域がスペイン全土か、EU全体まで含むか
  • 外来・入院・救急・処方薬が含まれるか
  • 既往症の扱い(補償外か、条件付きか、待機期間があるか)
  • 契約期間と、更新できるか、更新時に条件が変わるか
  • 居住国(滞在先)での使用に制限がないか
  • 証明書を、ビザ用の書式(英語またはスペイン語)で発行してもらえるか

SafetyWing の Essential が母国での補償を30日に限っているように、ノマド向け保険は「旅の途中」を前提にした制限を持つことがあります。

ちなみに、自分が入ったのは、スペインの保険会社 Asisa の外国人向け医療保険(Asisa Salud Expat)です。他の候補としては Adeslas や Sanitas の名前も挙がりましたが、日本語で対応してくれる代理店を通して Asisa に申し込みました。保険料は12か月契約で月63ユーロ、合計756ユーロ程度です。

決め手は、保険料の安さ、日本語でサポートを受けられること、補償の範囲、代理店がこの保険を扱っていて申し込みまで任せられることでした。代理店の案内では、医療費の上限がなく、待機期間もありません(妊娠に関してのみ、開始から8か月の待機期間があります)。入院と手術は自己負担なしで受けられ、遺体の本国送還の費用も含まれます。スペイン国外でも、1回の旅行につき90日・12,000ユーロまで補償されます。「旅行用の保険にも別に入るべきか」は、この国外の補償で足りるかどうかで判断できます。

申し込みから実際に使えるようになるまでは2週間ほどかかるため、渡航直後に使う可能性があるなら、開始日を早めに設定しておく必要があります。

国民健康保険を抜くか、残すか

海外に長く出るとき、住民票を抜く(海外転出届)かどうかで、国民健康保険の扱いが変わります。

保険の面から見ると、ポイントは2つあります。

  • 住民票を抜く場合は、日本の公的な健康保険から外れる前提で、海外での保険を自分で揃える必要があります
  • 残す場合は、日本に戻ったときの診療に使える一方、海外の滞在中は保険料を払い続けることになります

質問・リクエストを送る

記事についての質問や、取り上げてほしいテーマがあればお気軽にどうぞ。いただいた質問はブログ記事として回答し、Q&Aページで公開することがあります。

井上 周

井上 周

バルセロナ在住のデジタルノマドです。テクノロジーと身体について、自分で試したことを書いています。

プロフィール