
『キケン』(有川浩)のあらすじと感想——理系大学の男子サークルを描いた青春小説
有川浩の『キケン』を読みました。結論から言うと、自分にとっては妙に親近感の湧く青春小説でした。理系の大学に通っていた人、男子校で過ごした人には特に刺さると思います。
あらすじ:『キケン』はどんな話か
「キケン」とは、成南電気工科大学にある「機械制御研究部」の略称です。物語は、社会人になった主人公・元山高彦が、学生時代に所属していたこの部のことを振り返る回想の形で進みます。
工科大学なので、学生はほとんどが男子。そこに集まった個性の強いメンバーたちが、機械いじりや部の活動、学園祭や合宿を通じて全力で騒ぎ、全力でものを作っていきます。一見するとただの悪ふざけの連続なのですが、その熱量はどこか本気で、青春そのものです。大きな事件が起きるタイプの小説というより、濃すぎる日々の積み重ねを、卒業して時間が経った視点から愛おしく語り直す——そういう連作短編のような味わいの作品です。
理系・男子校出身として読んだ感想
自分は高校が男子校で、大学も工学部でした。だからこそ、『キケン』に描かれている空気には覚えがあります。目の前の面白いことには全力で突進し、それ以外のことにはとことん無頓着。そういうモードが、確かに当時の自分たちにもありました。読みながら、当時の部室や研究室のにおいまで思い出すような感覚がありました。
特にリアルだと感じたのは、彼らの「ふざけ方」です。傍から見れば不真面目で馬鹿げたことに、誰よりも真剣に労力を注ぐ。効率も損得も度外視して、ただ面白いからやる。あのエネルギーの注ぎ方は、理系の男だらけの環境を経験したことがある人なら、思い当たる節があるはずです。
「女性作家が描いた男の世界」という発見
読み終えてから、作者の有川浩が女性だと知って驚きました。これだけ「男くさい」世界が、女性の視点から描かれていたことに意外性があったからです。
むしろ、当事者だった自分がうまく言葉にできなかった「あの感じ」を、少し外側からの目線で的確にすくい取っている印象を受けました。内側にいると当たり前すぎて気づかないことを、距離のある視点だからこそ面白がって描けているのだと思います。図書館戦争シリーズなどで知られる作者ですが、こうした青春群像を描かせても巧みだと感じました。
読みどころは「社会人になってから振り返る」構造
この小説がただの学生ノリの話で終わらないのは、語り手が社会人になってから当時を振り返っている、という構造のおかげだと思います。渦中にいたときは必死だったり馬鹿馬鹿しかったりした出来事が、時間を置いて語られることで、かけがえのない時間として立ち上がってきます。
学生時代は、その瞬間には「こんな日々がずっと続く」と思いがちです。でも実際には、あんなふうに損得を考えずに全力を出せる期間は、人生のなかでそう長くありません。元山が懐かしそうに当時を語る口ぶりに自分の学生時代が重なって、読みながら少し切なくなりました。
恋愛が物語の主軸になるわけでもなく、派手な事件が起こるわけでもありません。それでも最後まで一気に読めてしまうのは、登場人物たちの熱量と、語りに滲むノスタルジーのおかげだと思います。
学生のうちに読めば「今この瞬間を全力でやろう」と思えるし、社会人になってから読めば「あの頃は良かった」と懐かしくなる。どの時期に読んでも、それぞれの刺さり方をする小説です。
こんな人におすすめ
文章はテンポがよく、難しいところもないので、あっという間に読めます。理系学部や男子校で過ごした人、学生時代に何かに熱中した記憶がある人には特に刺さるはずです。
社会に出ると、あの頃の無鉄砲なエネルギーはどうしても形を変えていきます。だからこそ、全力でふざけていられた時間を懐かしく思い出させてくれる、そんな一冊でした。
理系の環境で学生時代を過ごした人なら、登場人物の誰かに自分や友人の面影を重ねられると思います。読み終えたあとに、当時いっしょに馬鹿をやった仲間の顔がふと浮かんでくる——そんな余韻の残る作品でもありました。短い時間で軽く読めるわりに、心に残るものは思いのほか長く続きます。図書館戦争などの有川作品が好きな人にとっても、作者の引き出しの広さを感じられる一冊になるはずです。
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