【書評】ファンタジー小説『ゲド戦記』の原作を読んだ感想

【書評】ファンタジー小説『ゲド戦記』の原作を読んだ感想

こんにちは!
『ゲド戦記』という作品、みなさんご存知ですか?
ジブリで映画化もされているので一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
この『ゲド戦記』ですが、原作はアメリカの児童文学なんです!
ファンタジー好きの僕としては読んでおきたいなと思い、今回は読んだ感想です。

影との戦い ゲド戦記 (岩波少年文庫)

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アーシュラ・K.ル=グウィン, 清水 真砂子
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きっかけ:作者アーシュラ・K・ル・グウィンさんの訃報

ある時『ゲド戦記』の作者の方が亡くなったというニュースを目にしました。
僕はもともと『ゲド戦記』というジブリ映画は知っていたのですが、観たことはありませんでした。
どうも世間の評判はよくなく、宮崎駿監督やこのグウィンさんまでもあまり高評価されていないからです。

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しかし、ファンタジー好きな僕としては気にはなっていたのです。
「いつか原作で読んでやろう!」とずっと思っていました。

そんな時に目にしたのが今回の訃報です。
これは今しかない!」そう思った僕は『ゲド戦記』が眠る大学図書館の地下へと足を伸ばしたのでした。

ゲド戦記とは?

『ゲド戦記』とは、第1巻が1968年に出版されたファンタジー小説です。
今まで全6巻出版されていて、作者はアーシュラ・K・ル・グウィン。ちなみに、映画化された『ゲド戦記』は第3巻の『さいはての島へ』をもとに作られています。
僕はてっきり1巻が映画化されたのかと思っていたらそうではなかったんですね。
この「ゲド戦記」という名前なのですが、実は原題どおりではなく、原題は”Earthsea”なんです。
ゲドとは1巻の主人公の名前で、内容も戦記ではありません。アースシーという世界で繰り広げられる登場人物たちの冒険の物語になっています。
全米図書賞児童文学部門などたくさんの賞を受賞しています。

ゲド戦記I 影との戦い

今回紹介するのはそんなゲド戦記の第1巻『影との戦い』です。

主人公ゲドの生い立ちや成長の物語となっています。

まじないや魔法が存在するアースシーという世界で、ゲドはその力を認められて魔法を勉強するためロークの学院に行くことになります。
しかし、ロークの学院でゲドは許されざる禁断の魔法を使ってしまい、あの世から「影」を呼び出してしまうのです。
この呼出した「影」はその後もゲドを自らのものにしようと攻撃する機会を伺い、他人の姿を借りるなどあらゆる手を使ってゲドに忍び寄ってくるのです。
ゲドはそんな自らが招いた「影」と向き合って行かなくてはならない・・・。

といったゲドの影との戦いの物語です。

『ゲド』感想

ザ・王道ファンタジー!!
これが僕が最初に感じた感想でした。
神話、竜、歌、魔法。ファンタジーの基本的な要素がすべてそろっていますし、ゲドと一緒に冒険していくとワクワクが止まりません!

僕はこのゲド戦記の世界観が好きです。
アースシーにはたくさんの町、村があって、そこでは地域性に溢れた人が住んでいます。
島なら島の人、山なら山の人がちゃんと住んでいて、ゲドが冒険するとそれぞれのもてなし方でもてなしてくれるんです!
1つ1つの村、住む人、話す言葉までちゃんと描かれているのはゲド戦記の魅力の1つだなと感じました。
ちょっとおもしろいなと思ったのは、ロークの魔法学院のシーンです。
好きなだけ食べ物が食べられる食堂や大広間、9人の先生などは、どこか『ハリー・ポッター』のホグワーツを連想させました。

そして僕はこれこそファンタジーの醍醐味だと思っているのですが、ファンタジーの世界の物語なのにも関わらず、そこに僕たちが今住む世界の真理が書かれていることです。

以前、こちらの『アルケミスト』でも少し書きましたが、ファンタジー小説の中からは現実世界の僕たちへのメッセージが時々やってくると思っています。
詳しくは後述しますが、このゲド戦記からも僕はメッセージを受け取りました。

【書評】『アルケミスト』の感想。僕の人生を変えた本です。

本からのメッセージ

この本からもたくさんのメッセージを受け取りました。
【注】ここからは多少のネタバレを含みますのでご注意ください。

名前の秘密

まずは、「名前」ということについてです。アースシー世界では魔法使いは「もの」の本当の名前を呼ぶことで風を起こしたり、動物を操ったりします。
物語でゲドが呼び出してしまった「影」には名前がありません。それゆえゲドはその影をどうすることもできなかったのです。

これは、現実の僕たちにも言えることで、僕たちは「名前」によってものごとを認識していると思うのです。
例えば、「やかん」は「やかん」という名前の道具ですし、「りんご」は「りんご」という名前の果物です。
名前がついてないものはとても不安ですよね。
例えば、何か病気にかかってしまったとき。
病気の原理はわからなくても、「〇〇病」と診断されれば安心するなんてことはありませんか?
だから僕たちはあらゆるものに名前をつけるんですね。

自分を持つこと

次は、ゲドが影から逃げてある城に入り込んだときの話です。
ゲドはその城の奥にある石に心を奪われそうになりますが、なんとか耐えます。
これはその時の文です。

他者に己をゆだねない人間はたとえ悪でもそのとりこにするのは難しい。

ゲド戦記I 影とのたたかい p183

ゲドは己のことを己で考え、他人にその判断や行動を任せなかったのです。
その結果どんな悪いものの巧みな策略にも引っかからなかったんですね。
「自分を持つ」ことの大切さを表した一文です。

己を知ること

そしてもう一つ。

自分の死の影に自分の名前を付し、己を全きものとしたのである。すべてをひっくるめて、自分自身の本当の姿を知る者は自分意外のどんな力にも利用されたり支配されたりすることはない。

ゲド戦記I 影とのたたかい p270

これは物語の最後で語られることです。
僕の中ではこの文章はこの本の核と言ってもいいのかなと思います。
自分自身の中には嫌なもの、悪いもの、醜いもの、認めたくないものもたくさんあるんです。
けれど、そこから目をそむけないで受け入れ、ともに生きていく。
自分を知ること、僕ならば「あまね」という名前で表されたもの全てを知ることが大事。
そんなメッセージを受け取りました。

まとめ:己を知る。

これこそがゲド戦記の隠れたメッセージなのではないでしょうか。
第1巻では「ゲド」という人間に目が向けられています。
そして、ゲドを、自分をを知るためにはアースシーの世界の仕組み、魔法の仕組み、ゲドがしたこと、冒険を知ることが必要です。
『ゲド戦記』。ぜひ一度読んでみてはいかがでしょうか。

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第2巻の感想はこちらです。